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【素材】レース
【サイズ】23cm中指の先からグローブの端まで
【カラー】オフホワイト
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同人誌『謎の物語ブックガイド』及び『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』刊行のお知らせ


 新しく、同人誌を作成することにしました。タイトルは『謎の物語ブックガイド』。物語中で提示された謎が謎のまま終わってしまうという<リドル・ストーリー>を紹介したブックガイドです。
 <リドル・ストーリー>の代名詞とも言える、フランク・R・ストックトン「女か虎か」のような二者択一型の作品、芥川龍之介「藪の中」のように解釈が複数可能な作品、クリーヴランド・モフェット「謎のカード」のように真相が最後まで分からない作品、ウォルター・デ・ラ・メア「なぞ」のように物語自体が謎につつまれている作品など、大まかにテーマで分類して作品を紹介しています。
 併せて、「女か虎か」のパロディ・オマージュ作品、リドル・ストーリーそのものをテーマにした作品、リドル・ストーリーについて言及されているエッセイ・評論についても紹介を行っています。

 文学フリマ東京に合わせて刊行しますが、通信販売も行います。以下のお店で扱っていただく予定です。刊行は11月中旬頃を予定しています。

書肆盛林堂さん
CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)さん
享楽堂さん
文藝イシュタルさん

仕様は以下の通りです。

『謎の物語ブックガイド』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:96ページ(表紙除く)
表紙印刷:モノクロオンデマンド
本文印刷:モノクロオフセット
表紙用紙:アートポスト200K
本文用紙:書籍90K(クリーム)
表紙PP加工あり

内容は以下の通り。

目次

まえがき

二者択一型の作品
フランク・R・ストックトン「女か虎か」
フランク・R・ストックトン「三日月刀の督励官」
ジャック・モフィット「女と虎と」
マーク・トウェイン「恐ろしき、悲惨きわまる中世のロマンス」
マーク・トウェイン「天国だったか? 地獄だったか?」
H・G・ウェルズ「塀についたドア」
O・ヘンリー「指貫きゲーム」
スタンリイ・エリン「決断の時」
五味康祐「柳生連也斎」
星新一「友情の杯」
ロード・ダンセイニ「ネザビー・ガーテンズの殺人」
A・H・Z・カー「ティモシー・マークルの選択」
ハル・エルスン「最後の答」
ジョン・コリア「死者の悪口を言うな」
グレアム・グリーン「弁護側の言い分」
シャーロット・アームストロング「あなたならどうしますか?」
佐野洋「金属音病事件」
菊地秀行「香水」
松尾由美「琥珀のなかの虫」
法月綸太郎「使用中」
山本弘『夏葉と宇宙へ三週間』

解釈が複数可能な作品
アンブローズ・ビアス「月明かりの道」
芥川龍之介「藪の中」
ガストン・ルルー「恐怖の館」
マーク・トウェイン「終りのない話」
サキ「宵やみ」
ギ・ド・モーパッサン「手」
A・ハックスリー「ジョコンダの微笑」
江戸川乱歩「陰獣」
江戸川乱歩「盗難」
木々高太郎「新月」
アルベルト・モラヴィア「いまわのきわ」
都筑道夫「夢見術」
A・ビオイ=カサレス「大空の陰謀」
ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』
パトリシア・ハイスミス「からっぽの巣箱」
眉村卓「執念」
パトリック・マグラア『グロテスク』
レイ・ブラッドベリ「青い壜」
ジョン・ヴァーリィ「ブラックホールとロリポップ」

真相が最後まで分からない作品
上田秋成「青頭巾」
クリーヴランド・モフェット「謎のカード」
クリーヴランド・モフェット「続・謎のカード」
エドワード・D・ホック「謎のカード事件」
W・W・ジェイコブズ「失われた船」
ハリファックス卿「ボルドー行の乗合馬車」
フィッツ=ジェイムズ・オブライエン「絶対の秘密」
ロード・ダンセイニ「三つの悪魔のジョーク」
ロード・ダンセイニ「悪魔の感謝」
ロード・ダンセイニ「書かれざるスリラー」
スタンリイ・エリン「不当な疑惑」
稲垣足穂「チョコレット」
小松左京「牛の首」
筒井康隆「熊の木本線」
半村良「罪なき男」
山本周五郎「その木戸を通って」
バリイ・ペロウン「穴のあいた記憶」
田中小実昌「えーおかえりはどちら」
マヌエル・ペイロウ「わが身にほんとうに起こったこと」
クレイ・レイノルズ『消えた娘』
マルセル・ベアリュ「球と教授たち」
テレビドラマ「恐怖のメッセージ」

物語自体が謎につつまれている作品
ウォルター・デ・ラ・メア「失踪」
ウォルター・デ・ラ・メア「なぞ」
ナサニエル・ホーソーン「ヒギンボタム氏の災難」
ナサニエル・ホーソーン「牧師の黒のベール」
ラドヤード・キプリング「園丁」
小泉八雲「茶わんのなか」
ロード・ダンセイニ「野原」
A・E・コッパード「消えちゃった」
イーディス・ウォートン「万霊節」
イーデス・ウォートン「ざくろの実」
イーディス・ウォートン「一壜のペリエ水」
夢野久作「縊死体」
リチャード・マシスン「消えていく」
ジョン・コリア「少女」
ジョン・コリア「むかしの仲間」
城昌幸「古い長持」
フリオ・コルタサル「占拠された家」
アルベルト・モラヴィア「パパーロ」
ディーノ・ブッツァーティ「七階」
ディーノ・ブッツァーティ「なにかが起こった」
ディーノ・ブッツァーティ「怪物」
ハンス・カール・アルトマン「解けない謎」
都筑道夫『怪奇小説という題名の怪奇小説』
小松左京「お召し」
テリー・カー「試金石」
ハーヴィ・ジェイコブズ「おもちゃ」
諸星大二郎「黒石島殺人事件」
諸星大二郎「流砂」
ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』
テレビドラマ『プリズナー№6』
ヴィンチェンゾ・ナタリ監督『エレヴェイテッド』
剣先あおり「埃家」
剣先あおり「侵蝕」
澤村伊智「ありふれた映像」
マット・オスターマン監督『400デイズ』
ブラッド・アンダーソン監督『リセット』

「女か虎か」のパロディ・オマージュ作品
福永武彦「女か西瓜か」
都筑道夫「別巻一 ストックトン集 女か虎か」
小松左京「女か怪物(ベム)か」
生島治郎「男か?熊か?」
E・D・ホック「女かライオンか」
家田満理「女も、虎も……」
芦辺拓「異説・女か虎か」
芦辺拓「女も虎も」
東野圭吾「女も虎も」
高橋葉介「女か虎か」
高井信「女か虎か」

リドル・ストーリーそのものをテーマにした作品
米澤穂信『追想五断章』
山口雅也『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) 』
北村薫「走り来るもの」

リドル・ストーリーについて言及されているエッセイ・評論
各務三郎『ミステリ散歩』
石川喬司『夢探偵 SF&ミステリー百科』
高井信『ショートショートの世界』
北村薫『謎のギャラリー 名作博本館』
飯城勇三『本格ミステリ戯作三昧』
新井久幸『書きたい人のためのミステリ入門』




 もう一冊、以前に刊行したブックガイドの増補版『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』も刊行いたします。
 「夢」や「眠り」をテーマとしたフィクション作品を紹介したガイド本です。小説作品のほか、絵本、漫画、映画作品などについても触れています。
 旧版の内容に加えて、8ページほど増ページ、十数作品のタイトルを追加しています。表紙デザインを変更したほか、まえがき、作品タイトルの順番などを多少変更しています。

 文学フリマ東京に合わせて刊行しますが、通信販売も行います。以下のお店で扱っていただく予定です。刊行は11月中旬頃を予定しています。

CAVA BOOKS(サヴァ・ブックス)さん
享楽堂さん
文藝イシュタルさん

仕様は以下の通りです。

『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』
サイズ:A5
製本仕様:無線綴じ
本文ページ数:96ページ(表紙除く)
表紙印刷:フルカラーオンデマンド
本文印刷:モノクロオフセット
表紙用紙:アートポスト200Kアートポスト200K
本文用紙:書籍用紙90K(クリーム)

内容は以下の通り。

目次

まえがき

中国の夢物語の古典から
干宝「二人同夢」
沈既済「枕の中の世界の話」
李公佐「南柯郡太守の物語」
白行簡「三つの夢の話」
蒲松齢「宰相の夢のあと」
紀昀「農婦の夢」

同じ夢を見る
W・サマセット・モーム「マウントドレイゴ卿」
都筑道夫「殺し殺され」
ヘンリイ・スレッサー「夢を見る町」
ローラン・トポール「静かに! 夢を見ているから」
ウリ・オルレブ「クジラの歌」
半村良「夢あわせ」
夢見る人と夢見られる人
ホルヘ・ルイヘ・ボルヘス「円環の廃墟」
ジョヴァンニ・パピーニ「〈病める紳士〉の最後の訪問」
A・ビオイ=カサーレス「パウリーナの思い出に」
眉村卓「仕事ください」
眉村卓「ピーや」
都筑道夫「流刑囚」
ジュール・シュペルヴィエル「海の上の少女」
ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』
デヴィッド・アンブローズ「覚醒するアダム」
佐々木淳子「ミューンのいる部屋」
ジェフリー・フォード「光の巨匠」
三田村信行「ゆめであいましょう」

夢見られる世界
ロード・ダンセイニ『ぺガーナの神々』
ロード・ダンセイニ「ヤン川を下る長閑な日々」
ロード・ダンセイニ「ブウォナ・クブラの最後の夢」
エドモンド・ハミルトン「眠れる人の島」
クリストファー・プリースト『ドリーム・マシン』
チャールズ・ボーモント「トロイメライ」
アルベルト・モラヴィア「夢に生きる島」
ダニエル・F・ガロイ「今宵、空は落ち…」
押井守監督『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
小林泰三「影の国」
小林泰三「目を擦る女」
アーシュラ・K・ル・グィン『天のろくろ』
フィリップ・ハース監督『レイス・オブ・ヘブン 天のろくろ』

夢の中の家
A・M・バレイジ「夢想の庭園」
アンドレ・モーロワ「夢の家」
イギリス民話「夢の家」
内田善美『星の時計のLiddell』
E・F・ベンソン「塔のなかの部屋」
キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』
バーナード・ローズ監督『ペーパーハウス/霊少女』
三津田信三「夢の家」

どちらが夢なのか?
アンブローズ・ビアス「アウル・クリーク橋の一事件」
A・M・バレイジ「もうひとりいる自分」
ヘンリー・カットナー「大ちがい」
リーノ・アルダーニ「おやすみ、ソフィア」
ロバート・シェクリイ「夢売ります」
ロバート・シェクリイ「夢の世界」
チャールズ・ボーモント「夢と偶然と」
R・A・ラファティ「夢」
オースン・スコット・カード「解放の時」
ジェラルド・ペイジ「幸福な男」
ラムジー・キャンベル「夢で見た女」
ワレリイ・ブリューソフ「いま、わたしが目ざめたとき…」
フリオ・コルタサル「夜、あおむけにされて」
楳図かずお「楳図かずおの呪い 幽霊屋敷」
結城真一郎『プロジェクト・インソムニア』
エイドリアン・ライン監督『ジェイコブズ・ラダー』


人生は夢
ナサニエル・ホーソーン「デーヴィッド・スワン」
ペドロ・カルデロン・デ・ラ・バルカ「人の世は夢」
アースキン・コールドウェル「夢」
エルクマン=シャトリアン「壜詰めの村長」
半村良「夢たまご」
半村良『夢中人』
トマス・ピアース「実在のアラン・ガス」

死出の旅としての夢
アンブローズ・ビアス「ハルピン・フレーザーの死」
ライアン・スミス監督『スモーク』
ロバート・F・ヤング「河を下る旅」

悪夢を見る人々
ウィルキー・コリンズ「夢のなかの女」
ブラム・ストーカー「血まみれの手の悪夢」
シャーリイ・ジャクスン「夜のバス」
W・W・ジェイコブズ「人殺し」
シーリア・フレムリン「特殊才能」
ロード・ダンセイニ「悪夢」
アラン・ワイクス「悪夢」
ロバート・R・マキャモン「ミミズ小隊」
フィリップ・K・ディック「凍った旅」
H・P・ラヴクラフト「魔女の家の夢」
半村良「夢の底から来た男」
タニス・リー「アヴィリスの妖杯」
ジョナサン・キャロル「卒業生」
三田村信行「ゆめのなかの殺人者」
都筑道夫「夢買い」
高橋葉介「悪夢交渉人」
楳図かずお「錆びたハサミ」
チャールズ・クライトンほか監督『夢の中の恐怖』
瀬川貴次「心配しないで」

未来の夢
H・G・ウェルズ「世界最終戦争の夢」
クリス・ヴァン・オールズバーグ『ゆめのおはなし』
クリス・ヴァン・オールズバーグ『まさ夢いちじく』
クルト・クーゼンベルク「蒼い夢」

予知夢について
アベル・ユゴー「死の刻限」
リヒャルト・レアンダー「夢のブナの木」
ジョン・コリア「夢判断」
I・S・トゥルゲーネフ「夢」
リチャード・マシスン「おれの夢の女」
スティーヴン・キング「ハーヴィの夢」
ステファニー・ケイ・ベンデル「死ぬ夢」
フィリパ・ピアス「クリスマス・プディング」
ミッシェル・フェイバー『祈りの階段』
ローレンス・ブロック「頭痛と悪夢」
レオ・ペルッツ「アンチクリストの誕生」

不思議な眠り
テオフィル・ゴーチェ「ミイラの足」
マルセル・ベアリュ「諸世紀の伝説」
レイ・ブラッドベリ「熱にうかされて」
J・G・バラード「マンホール69」
ジョン・コリア「眠れる美女」
ヘルムート・M・バックハウス「眠れる美女」
J・M・ストラジンスキー「夢の扉」
L・P・ハートリー「合図」
諸星大二郎「夢みる機械」
榊林銘「不眠症」

夢に潜り込む
ピーター・フィリップス「夢は神聖」
筒井康隆『パプリカ』
ジーン・ウルフ「探偵、夢を解く」
ウォシャウスキー兄弟監督『マトリックス』シリーズ
ターセム・シン監督『ザ・セル』
クリストファー・ノーラン監督『インセプション』

異世界の夢
アラン・E・ナース「悪夢の兄弟」
ジョーン・エイキン「ねむれなければ木にのぼれ」
ジョーン・エイキン「ぬすまれた夢」
ジャック・ロンドン『星を駆ける者』
萩尾望都『バルバラ異界』
恒川光太郎「白昼夢の森の少女」
佐々木淳子「赤い壁」
佐々木淳子『ダークグリーン』
有栖川有栖「夢物語」

冷凍睡眠をめぐる物語
C・D・シマック『なぜ天国から呼び戻すのか?』
山田風太郎「冬眠人間」
トマス・ワイルド「乳母」
アーナス・ボーデルセン『蒼い迷宮』
J・ティプトリー・ジュニア「グッドナイト、スイートハーツ」

夢さまざま
ロード・ダンセイニ「予言者の夢」
ロバート・アーウィン『アラビアン・ナイトメア』
ロジャー・マンベル『呪いを売る男』
澁澤龍彦「夢ちがえ」
夏目漱石「夢十夜」
岸浩史『夢を見た』
イヴァン・ヴィスコチル「飛ぶ夢」
安部公房『笑う月』
眉村卓「疲れ」
スタンリイ・エリン「壁のむこう側」
高原英理「青色夢硝子」
高原英理「ブルトンの遺言」
澤村伊智「夢の行き先」
福澤徹三「廃憶」
フジモトマサル『夢みごこち』
マーガレット・ミラー『見知らぬ者の墓』
ミルチャ・エリアーデ『令嬢クリスティナ』
ウォルター・デ・ラ・メア『死者の誘い』
エドワード・ルーカス・ホワイト『ルクンドオ』
シャーロット・マクラウド「執念」
津川智宏『人魚町』

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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がっかりする物語  セルジョ・トーファノ『ぼくのがっかりした話』

ぼくのがっかりした話 (シリーズ再生の文学) 新書 – 2021/9/13


 イタリアの作家セルジョ・トーファノ(1886年~1973年)の『ぼくのがっかりした話』(橋本 勝雄訳 英明企画編集)は、落第続きの少年が家庭教師の導きでお伽の国を探検し、失望を繰り返すことになる…という脱力系のフェアリー・テールです。

 落第続きのベンヴェヌート少年は家庭教師を付けられますが、その出来の悪さから、家庭教師たちは次々に辞めてしまいます。13番目の家庭教師パルミーロ・メッザネッラは、勉強代わりにおとぎ話を語り、ベンヴェヌートや周囲の子どもたちを魅了します。
 パルミーロがおとぎ話ばかりしていたことに激怒したベンヴェヌートの父親は彼を解雇しようとしますが、パルミーロはベンヴェヌートに自分の話すおとぎ話や魔法は事実だと断言します。彼が持っていた、一歩で七リーグ進むことができる魔法の靴を履いたベンヴェヌートは、一瞬でひとけのない野原に来ていました。
 ベンヴェヌートは、おとぎの国や有名な物語の登場人物たちと次々と出会うことになりますが、そこにあるのは「がっかり」するものばかりでした…。

 家庭教師の魔法の靴を盗み出した少年が、様々なおとぎ話の住人に出会うことになりますが、それらが思い描いていたものと全く異なることに「がっかり」を繰り返す…という脱力系のフェアリー・テールとなっています。
 冒険や魔法に憧れるベンヴェヌート少年が、様々なおとぎの国を訪れ、有名なおとぎ話の登場人物たちに出会うことになります。しかしそこにはろくな「魔法」も「英雄」も存在しなかったのです。
 例えば、人食いの夫婦が菜食主義者で子どもたちを幸せにしようとする善人になっていたり、眠れる森の美女が不眠症になっていたり、善人となったオオカミが主婦となった赤ずきんの家で手伝いとして働いていたり、アラジンが経済的に落ちぶれていたりと、夢と冒険を求めていたベンヴェヌートの期待を裏切るような出来事ばかりに遭遇します。やがては、おとぎ話の世界に対して嫌悪感まで抱くようになってしまいます。
 一方、家庭教師のパルミーロは、最初から最後まで、おとぎ話と夢の世界に生きている人物で、ベンヴェヌートをそうした世界に誘おうとするのですが、彼に対してもベンヴェヌートは怒りを向けることになります。

 現実世界で落第を繰り返す少年が、おとぎ話と魔法の国で冒険をして帰還する…という、形だけ見れば王道のファンタジーなのですが、そのおとぎの国も失望だらけの「がっかり」続き、少年が成長することもない、という皮肉なお話になっています。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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夢を見るものたち  シオドア・スタージョン『夢みる宝石』

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 シオドア・スタージョンの長篇『夢みる宝石』(永井淳訳 ハヤカワ文庫SF)は、カーニヴァルに保護されることになった孤児の少年と、様々なものを生み出す不思議な水晶をめぐって展開される、幻想的なファンタジー作品です。

 アーマンドとトンタのブルーイット夫妻に引き取られた八歳の少年ホーティは、ひどい扱いを受けていました。学校で蟻を食べているところを目撃されたホーティは、それが原因でアーマンドに折檻されてしまいます。指にひどい怪我を負ったホーティは家を飛び出し、たまたま出会ったカーニヴァルの一座に保護されます。
 元医者の団長モネートルに怪我の手当をしてもらったホーティは、女の子のふりをして、一座の花形である美しい小人のジーナの姉妹役となります。キドーと名乗るようになったホーティは一座に溶け込んでいきます。
 モネートルは、自ら発見した水晶の研究を進めていました。その水晶は、人の感情を読み取り、夢みることによって、様々なものを生み出す不思議な能力を持っていました。人間に憎悪を抱くモネートルは、水晶を利用して人々を操ろうと考えていました…。

 カーニヴァルを舞台に、夢みる水晶をめぐり、風変わりな人物たちが描かれる幻想ファンタジー小説です。
 十数年の時を挟んで、物語は大きく二つに分かれています。前半は、養父母から逃げ出した孤児の少年ホーティがカーニヴァルに保護され、一座で活躍するようになるまでが描かれます。その過程で、ホーティの保護者となったジーナは、彼に不思議な力があることを見抜きます。
 後半は、十数年後、団長のモネートルにホーティの力が利用されることを恐れたジーナが、ホーティを逃がすことになります。一人で生きるようになったホーティが、元同級生の女性ケイの苦難を助けたことから、その居場所を察知され、モネートルに利用されそうになる…という展開になっています。

 人間の感情に反応して、物や生物を生み出す水晶が登場します。憎悪の感情によって水晶をコントロールしようとするモネートルですが、生み出されるのは奇形の生物ばかり。完全なコントロールをするための「仲介者」を求めていたモネートルは、ホーティに目を付けることになるのです。
 水晶が物を生み出すことが「夢をみる」と表現されているのも独特ですね。また水晶はペアになってこそ本領を発揮できるといい、そのことが「水晶の結婚」という象徴的な表現で表されています。

 広い意味での「孤独と愛」がテーマになっている作品です。孤児である主人公ホーティもそうですし、不信に囚われ人間を信用できなくなったモネートル、自らの生まれとその体から孤独感を感じ続けるジーナ、両親を亡くし頼る者のなくなったホーティの同級生ケイも当てはまるでしょうか。
 彼らが孤独を克服し愛を手に入れることができるのか?大部分の人物には、最終的に救済がもたらされるというのも、この作品の後味が良い理由の一つでしょうか。

 特殊な力を発揮する主人公ホーティ以外にも、特色ある人物としてあげられるのが、モネートルとジーナ。
 敵役となる<人食い>モネートルは、過去に傷つけられた結果、人間を憎むようになった人物です。水晶の力を利用した結果暴走してしまうのですが、カーニヴァルの一座ではフリークスたちを匿ったり、ホーティの怪我の手当をしたりと、その性格の中には善性も見られるという、両面性のある人物として描かれています。
 ジーナは、成長しない小人としてカーニヴァルで働く女性。その体質と生まれから孤独感を抱いています。ホーティに対して、彼に母性的な保護を与えることになります。ホーティの成長の物語といえる本作品ですが、裏返せばそれがジーナの物語でもあったことが分かるクライマックスには感動がありますね。

 「人間」とは生まれではなく「なる」もの、生まれや性質がどうあれ「愛」があれば「人間」になることはできる…というメッセージが内在した物語となっています。
 物語の重要なテーマとなる水晶をめぐる部分も面白いです。複製を生み出したり、生き物を生み出したりと、不思議な力を持っています。場合によっては人間を害したり、殺す事さえ可能なのです。実際、後半ではモネートルとホーティとの間に、精神的な戦いが交わされ、そこには緊迫感とサスペンスが感じられます。
 美しいイメージやリリカルな雰囲気がある一方で、ダークでグロテスクな情念が横溢しており、その混沌とした部分も魅力になっています。


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11月の気になる新刊と10月の新刊補遺
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発売中 沼野充義、沼野恭子編訳『ヌマヌマ はまったら抜けだせない現代ロシア小説傑作選』(河出書房新社 3520円)
10月27日刊 ミロラド・パヴィッチ『十六の夢の物語 M・パヴィッチ幻想短編集』(三谷惠子訳 松籟社 予価2090円)
10月29日刊 キース・トーマス『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日』(佐田千織訳 竹書房文庫 予価1320円)
11月8日刊 オクテイヴィア・E・バトラー『キンドレッド』(風呂本惇子、岡地尚弘訳 河出文庫 予価1672円)
11月8日刊 新保博久編『サンタクロースの贈物 クリスマス×ミステリー』(河出文庫 予価1089円)
11月10日刊 米澤穂信『米澤屋書店』(文藝春秋 予価1870円)
11月11日刊 フランシス・ハーディング『ガラスの顔』(児玉敦子訳 東京創元社 予価3850円)
11月11日刊 C・L・ムーア『大宇宙の魔女 ノースウェスト・スミス全短編』(中村融、市田泉訳 創元SF文庫 予価1650円)
11月12日刊 オラフ・ステープルドン『スターメイカー』(浜口稔訳 ちくま文庫 予価1430円)
11月12日刊 アナ・マリア・マトゥーテ『小鳥たち マトゥーテ短篇選』(宇野和美訳 東宣出版 予価2420円)
11月12日刊 野呂邦暢『野呂邦暢 古本屋写真集』(岡崎武志、小山力也編 ちくま文庫 予価1100円)
11月12日刊 多田智満子『魂の形について』(ちくま学芸文庫 予価1100円)
11月16日刊 ジャンニ・ロダーリ『クジオのさかな会計士』(内田洋子訳 講談社文庫 予価902円)
11月19日刊 ジョン・ランディス編『怖い家』(宮﨑真紀訳 エクスナレッジ 予価1870円)
11月中旬発売 瀬戸川猛資、松坂健『二人がかりで死体をどうぞ 瀬戸川・松坂ミステリ時評集』(盛林堂ミステリアス文庫 予価3500円)
11月22日刊 海野弘『知られざるアメリカの女性挿絵画家 ヴァージニア・ステレット』(マール社 予価2420円)
11月23日刊 エマ・ドナヒュー『星のせいにして』(吉田育未訳 河出書房新社 予価2750円)
11月25日刊 沼野充義、藤井省三編『囚われて 世界文学の小宇宙2』(名古屋外国語大学出版会 予価2420円)
11月26日刊 シルビナ・オカンポ『復讐の女/招かれた女たち』(寺尾隆吉訳 幻戯書房 予価5280円)
11月29日刊 福井健太編『SFマンガ傑作選』(創元SF文庫 予価1540円)
11月29日刊 エドワード・ゴーリー『鉄分強壮薬』(仮題)(柴田元幸訳 河出書房新社 予価1452円)
11月29日刊 ヘンリー・カットナー『〈ギャロウェイ・ギャラハー〉シリーズ短篇集』(山田順子訳 竹書房文庫 予価1100円)
11月30日発売 『幻想と怪奇8 魔女の祝祭 魔法と魔術の物語』(新紀元社 2420円)


 ミロラド・パヴィッチ『十六の夢の物語 M・パヴィッチ幻想短編集』は、『ハザール事典』で知られる著者の幻想的な短編を集めた作品集。これは面白そうですね。

 『嘘の木』の著者フランシス・ハーディングの邦訳最新作が登場です。『ガラスの顔』は「人々が《面》と呼ばれる表情を顔にまとって暮らす地下都市を舞台に、はねっかえりの少女が、国をゆるがす陰謀に巻き込まれる。」という冒険ファンタジイだそう。

 多田智満子『魂の形について』は、詩人・翻訳家として知られる著者が、魂の形象をテーマに書いたエッセイ。古書価も高くなってしまっていたので、復刊は嬉しいところです。

 ジョン・ランディス編『怖い家』は、映画監督として知られるランディスが編んだ幽霊屋敷ものアンソロジー。ポー「アッシャー家の崩壊」、ラヴクラフト「忌み嫌われた家」、シャーロット・P・ギルマン「黄色い壁紙」ブラム・ストーカー「判事の家」など14編を収録。名作を集めた感が強いアンソロジーのようです。

 シルビナ・オカンポ『復讐の女/招かれた女たち』は、短篇の名手としても名高いアルゼンチンの女流作家。日本ではまとまった作品集の紹介がなかったオカンポの短篇集『復讐の女』『招かれた女たち』、全78篇を収録とのこと。

 福井健太編『SFマンガ傑作選』は、SFマンガ14編を集めたアンソロジー。収録作家は、手塚治虫、松本零士、筒井康隆、萩尾望都、石ノ森章太郎、諸星大二郎、竹宮惠子、山田ミネコ、横山光輝、佐藤史生、佐々木淳子、高橋葉介、水樹和佳子、星野之宣とのこと。

 ヘンリー・カットナーの邦訳は随分久しぶりになるのでは。『〈ギャロウェイ・ギャラハー〉』は、酔っ払ったときだけ天才的な発明をする科学者ギャロウェイを主人公にしたユーモラスなSFシリーズです。


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魔法の鳥たち  ハンス・ファラダ『田園幻想譚』

田園幻想譚 (ハヤカワ文庫FT) 文庫 – 1982/3/1


 ドイツの作家ハンス・ファラダ(1893年~1947年)の長篇『田園幻想譚』(前川道介訳 ハヤカワ文庫FT)は、財産の相続権をめぐって、魔法使いたちの陰謀に巻き込まれてしまった青年の苦難を描くファンタジー小説です。

 参事官アージオのもとで働く、天涯孤独の青年書記官グントラム・シュパット。延々と続く書類仕事にやるせない思いを抱えていたところ、同僚であるブーボから、グントラムには裕福なおじと美しい従姉妹がいることを知らされます。しかも彼には財産の相続権もあるというのです。
 彼らに会いに行けばいいというブーボは、魔法でスズメをグントラムの姿に変え、代わりに仕事をさせることにします。さらにグントラムにはスズメに変身する魔法を授け、おじの家まで飛んでいけと話します。
 おじの家に辿り着いたグントラムは、東屋で若い娘と男との話を立ち聞きすることになります。娘は、どうやらグントラムを始末する計画を立てているようなのですが…。

 天涯孤独だと思っていた青年が、裕福なおじとその娘の存在を知り、彼らのもとを訪れますが、先回りした魔法使いたちの手により財産を奪われそうになる、というファンタジー作品です。
 グントラムが相続すべき財産を奪おうと、参事官アージオや、おじの養女チリ、親戚のターレリンおばさんなど、敵方の人物が魔法を使ってグントラムを陥れることになります。ブーボから魔法を授けられるものの、魔法に関して素人に近いグントラムは、次々とピンチに陥ってしまいます。
 主人公がところどころで反撃できそうな機会があるのですが、ことごとく失敗してしまうので、挽回のチャンスが本当にあるのか心配になってしまいます。その意味で、非常にサスペンスがありますね。

 作中で使われる魔法は、もっぱら変身の魔法で、魔法の心得がある人物たちが、人間以外の動物に変身します。作品全体のモチーフが鳥になっているようで、変身するのもスズメ、カササギ、フクロウ、ワシミミズクなどの鳥類がメインとなっています。
 おじの屋敷が通称「スズメ屋敷」、主人公グントラムが変身するのもスズメだったりと、中でもスズメが重要な扱いをされていますね。さらに、魔法でグントラムの姿に変身させられた野生のスズメが、偽の相続人として現れます。
 このスズメ自身は野生に帰りたがっており、人間の姿をしながらも話すのは鳥のような鳴き声交じり、食べるものもミミズだったりするのがおかしいところです。

 ヒロインとしては、美しい従姉妹のモニカ、その妹で養女のチリが登場します。グントラムが屋敷に辿り着いた直後に盗み聞きすることになった、彼の追放計画がモニカによるものではないかという疑惑も発生したり、偽物に騙されたおじがグントラムを疑うなど、主人公が何度もピンチに陥り、飽きさせない展開になっています。
 ただ、主人公の反撃が全然なされず、本当に最後の最後までやられっぱなしなので、少々ストレスがたまる物語展開ではありますね。

 作中で語られる、シュパット一族に伝わる呪いのエピソードも面白いです。祖先が相続に疲れ、跡取り以外の兄弟は二十一歳以上生きられないという呪いを悪魔と結んだといいます。グントラムの父親とおじが双子だったために、財産と呪いをめぐって争いが起こってしまったのです。グントラムが天涯孤独になった遠因もそこにあるということで、興味深いエピソードになっています。

 一般人の主人公が一方的に事件に巻き込まれ困難に陥るという「巻き込まれ型サスペンス」というジャンルがありますが、その流れで言うと、この作品「巻き込まれ型ファンタジー」とでも言いたいタイプの作品です。
 素人の主人公が、魔法使いたちに翻弄されてしまいます。唯一の味方と言うべきブーボも本当に信用しきれるのか? といった疑いもあり、一筋縄ではいかないファンタジー作品となっています。

 ドイツ・ロマン派メルヘンの巨匠E・T・A・ホフマンに相当影響を受けた作品だそうで、確かに、読んでいてその影響も感じます。日常世界と魔法が混然一体となった作風で、ホフマンの『黄金の壺』『ブランビラ王女』などとも共通するところがありますね。
 タイトル通り、田園の生活や動物の描写が鮮やかなのも魅力となっています。特に鳥類(本物の鳥も魔法使いが変身した鳥も)は作品を通して活躍するので、鳥好きの方には更に楽しめる作品ではないでしょうか。


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玄妙なる物語  シンシア・アスキス『願わくは彼女の眠り続けんことを 英國幻想奇譚集』

 シンシア・アスキス『願わくは彼女の眠り続けんことを 英國幻想奇譚集』(矢藤生葉編訳 綺想社 ※同人出版)は、イギリスの作家にしてアンソロジストでもあるアスキス(1887-1960)の怪奇幻想小説を集めた作品集です。

「遊び仲間」
 妻を亡くした後、さらに火事で娘ダフネを失った結果、廃人となってしまい亡くなった兄。館を相続することになった弟クラウドは、妻ローラと一人娘ヒアシンスと共に生家の館<ライクン・ホール>に移住することになります。
 教区牧師によれば、ヒアシンスの姿は亡くなったダフネとそっくりだというのです。館に来てからヒアシンスが元気になったことを喜びながらも、彼女の言動に不審なものを感じる両親でしたが…。
 少女が、過去に亡くなった従姉妹の霊に憑かれてしまうというゴースト・ストーリーなのですが、その霊自体の存在が明確に描かれず、ヒアシンスの言動から間接的にしか描かれないという体の作品になっています。父親であるクラウドにも後ろ暗い過去があるなど、なかなかに不穏な作品です。

「白い蛾」
 裕福な出版人ホワイト氏によって見出されたイヴリン・ドーンは、出版した詩集が絶賛され、天才少女詩人としてもてはやされていました。ホワイト氏の出版社に勤める「わたし」は、繊細な少女を想像していましたが、実際に会ったイヴリンことジョイス・レッグは、才気を全く感じさせない、とても詩人とは思えない凡庸な少女でした。
 第一詩集を出してから後、全く作品を書かないジョイスに焦りを感じたホワイト氏は、彼女に詩を書かせるよう「わたしを」派遣することになります。ジョイスが打ち明けるところによれば、詩を書いたのは、両親と共に訪れていたコッツウォルズの旧い館にいたときだけで、それも無意識に書かされていたというのです。
 その館に行けば再び詩が書けるのではないかと考えた「わたし」は、その館<グレイ・ゲイブルス>にジョイスと共に訪れることになりますが…。
 霊感ではなく、文字通り霊の影響によって詩を書かされていた少女を描くゴースト・ストーリーです。ジョイスは詩を何とも思っておらず、書いた詩をすぐに捨ててしまいます。壁に書かれた詩文をあわてて暗記しようとする「わたし」の行動はユーモラスに描かれています。
 ジョイスが見かけによらない天才なのか、それとも本当に凡庸な人間であるのかが分からない状態で展開する物語にも、妙なサスペンスがありますね。

「角店」
 弁護士ピーター・ウッドが亡くなった後に見つかった若い頃の回想を記した文書。そこには不思議な骨董店について綴られていました。
 ピーターは、あるとき見付けた骨董店で、店を切り回している姉妹らしき女性と少女に出会い、店の明るい雰囲気と彼女たちに好感を持ちます。しかし再度訪れたその店にはくたびれた老人しかおらず、店の雰囲気は暗いものでした。
 ふと見付けた、安い蛙の置物を買って帰ることになりますが、友人を介して鑑定してもらったその品物は夏王朝の翡翠細工で、莫大な価値を持つものでした。品物の価値を正直に伝えようと、再び骨董店を訪れることになりますが…。
 平井呈一の訳でも知られるアスキスの名作です。以前の明るい店とは異なる様相を持って現れる不思議な骨董店。謎の老人は何者なのか? ある男の贖罪について語られる、情感に満ちた幻想小説です。

「追われる女」
 心臓病を患い入院していたディーン夫人は、自分を追いかけるように所々で現れる不気味な男を恐れていました。主治医からの紹介で訪れた精神科医ストーンは、妙な黒いマスクをした状態で現れ、夫人の話を聞くことになりますが…。
 精神のバランスを崩しているらしい主人公、そして仮面をかぶって現れる謎の精神科医。不穏な雰囲気で開始される物語で、悪夢のような展開となっています。クライマックスでは、日本の某妖怪譚を想起させるシーンもありますね。

「墓一つ足りぬ」
 心霊現象に詳しいとされる老人は、ある男の話を語り出します。
 ジョン・ブライアンと出産を控えた妻ローラは、グレイストック荘園に一目惚れし、そこに引っ越してきます。ジョンは教区牧師から、前の住人とさらにその前の住人ともが、出産の際に妻が亡くなっていることを知り、不安にかられます。その家ではさらに昔、厳しい両親と共に住んでいた娘が監禁され、その後両親と共に行方知れずになっていたというのですが…。
 何人もの女性が出産の際に命を落としているという因縁のある家。かって監禁され亡くなった女性の霊のなせる業なのか? 話を聞いた夫が、自らも妊娠中の妻を抱えて不安にかられる様子がサスペンス豊かに描かれます。
 かって近所で暮らしていた産婆の名前が取り沙汰され、それが霊のメッセージとなって現れるクライマックスシーンの戦慄度は高いですね。

「初日」
 女優のシルヴィアとその恋人であるプロデューサーのクライブは、劇のリハーサルが失敗に終わったことに落胆していました。その劇は、二十年前に主演女優が病のために上演できず、俳優でもあった作者の劇作家はそれが遠因で亡くなったという因縁のある作品でした。
 失敗は男優のフィーリックス・ウィングのせいだと詰るシルヴィアでしたが、初日の本番が始まった途端に現れたフィーリックスは、まるで別人のような演技を披露し、周囲を感嘆させます…。
 舞台に未練を残した幽霊が、実際の劇中に現れ役を演じるというゴースト・ストーリーです。その演技の素晴らしさに魅了され、婚約者のことはどうでも良くなってしまうというヒロインの心理描写が面白いですね。

「堅果の殻」
 全ての環境を変えなければ自由な人生が取り戻せないと感じていたフェリシティ・クレスウェルは、新しい家に移り住み、使用人も全てを入替え、生活を一新します。彼女は、亡き夫に関わる記憶から悪夢に悩まされていました。環境を変えることで一時は収まるかのように見えた悪夢は、再びフェリシティを苦しめるようになります。
 そんな中、フェリシティの愛する息子ロイが心臓疾患にかかり、家の中で過ごすことを余儀なくされます。ロイの心臓の薬が足りなくなることに不安を抱くフェリシティでしたが…。
 夫の死に関して秘密を抱える女性が、それが原因で悪夢を見続けますが、愛する息子に対しても同じような経験をすることになる…という幻想作品です。
 女性が過去に犯した罪が断罪されるという、ある意味「因果は巡る」物語となっています。息子によって母親は救われる、という占い師の言葉が、違った意味で実現されるという結末の一文は非常に怖いですね。

「素敵な声」
 家庭教師のプラージュ女史と共にフランスにやってきた一三歳の少女の「わたし」は、そこで美貌の黒髪の女性と出会いますが、その美しい声も相まって彼女に憧れの念を抱きます。黒髪の女性の連れのもう一人の女性は容姿も凡庸で、二人がどういう関係なのか「わたし」は訝しみます。
 森の中で二人の女性と出会った「わたし」は眠ったような連れの女性の姿に不審の念を抱きますが、後に彼女は殺害されていたことが分かります。殺人者と目される黒髪の女性は行方をくらませていました。しかも、殺された女性は、美貌で知られる詩人レオン・ル・ロワの妻だったのです…。
 美貌の詩人をめぐって、愛人が妻を殺害した事件を描くサスペンス作品なのですが、それらの経緯が少女の視点を通して描かれます。殺人者である女性が、その残酷さにも関わらず、ひどく魅力的に描かれるのが特色ですね。

「はじまりは何?」
 看護師の「わたし」は、医師のカスバート・グリーンと婚約中でしたが、脳疾患の患者として入院していたオーストラリア出身の青年ライオネル・ファーズにも惹かれていました。ライオネルは悪夢に悩まされているといいます。
 その夢では、足を引きずり、耳の出っ張った美男子の男が現れるのですが、彼にひどい行為を行ってしまうというのです。
 新聞で見た男が、夢に現れる男そっくりだと話すライオネルですが、その男は才気溢れる外科医として有名なジョン・スティールでした。スティールに出会うことを恐れるライオネルでしたが、「わたし」はその可能性はないとなだめます。
 ライオネルの手術の直前、執刀医が来れないことが判明し、急遽呼ばれたのはジョン・スティールその人でした。しかも彼は一年前の事故のせいで足を引きずっていたのです…。
 たびたび見る悪夢通りの人間が目の前に現れる、という怪奇小説です。ライオネルとスティールが二人ともオーストラリアの出身であり、その親を含めて過去に何か事件があったことが仄めかされるのですが、その真相については明かされません。
 最終的にスティールが語る言葉も何を表しているのかも判明せず、非常にもやっとした雰囲気の、気色の悪さが残る作品となっています。
 ライオネルの悪夢についても、相手に何かされるのではなく、逆に自分が相手を傷つけていることが語られるのですが、具体的に何をしているのかも分からないところが気味が悪いですね。
 夢がテーマとなっていることもありますが、全体に悪夢のような雰囲気の横溢する、不気味な短篇となっています。

「願わくは彼女の眠り続けんことを」
 モスストーンの荘園屋敷の若き女主人マーガレット・クルーワー。彼女には身寄りがなく心臓に病を抱えていました。マーガレットの治療をすることになった医師の「僕」は、彼女の魅力に捉えられ恋をするようになりますが、その思いを隠していました。
 屋敷のそばにある墓地には、一族の先祖が眠っていました。一六世紀の先祖エルスペス・クルーワーの墓碑にのみ「願わくは彼女の眠り続けんことを」という言葉が彫られており、実際彼女は一族から忌まれていた人物だといいます。
 マーガレットは時折発作のようなものを起こした際に、自分自身を傍から見ているような現象に襲われることがありました。その際、鏡を見ると自分の鏡像が写らないというのです。幻覚だと説明する「僕」でしたが、マーガレットは納得しません。
 そのうちにマーガレットの様子がおかしくなり、夢遊病のような症状を見せ始めます。夜中に彼女が眠り込んでいた場所は、エルスペス・クルーワーの墓石の上でした…。
 若い女性が、悪名を馳せた先祖の女性の霊に取り憑かれるという「憑依もの」作品です。自分で自分の姿を見るなど、「分身」のモチーフもあるようですね。
 語り手である医師の「僕」は超自然現象を信じず、客観的にマーガレットの病状を診ています。マーガレットの身に起きる現象が超自然ではなく、精神的な疾患と捉えることも可能なように描かれているようです。
 シンシア・アスキス「鎮魂曲」(『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』創元推理文庫 収録)として平井呈一の既訳もある作品です。


 豊かな物語性、工夫された語り口、しっとりとした情感…。どれも落ち着いた雰囲気のゴースト・ストーリーで、味わいのある短篇集となっています。怪奇小説の名手アスキスの代表的な作品が味わえるということで、同人出版ながら、非常に貴重な刊行物といえるかと思います。


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めぐり会う愛  ポール・ギャリコ『トマシーナ』

トマシーナ (創元推理文庫) 文庫 – 2004/5/25


 ポール・ギャリコの長篇『トマシーナ』(山田蘭訳 創元推理文庫)は、娘の愛猫を安楽死させてしまった獣医の父親とその娘との感情の葛藤を描く、繊細なファンタジー作品です。

 友人のアンガス・ペディ牧師の勧めで、スコットランド高地の小さな町インヴァレノックで開業した獣医師アンドリュー・マクデューイ。仕事ぶりには定評があったものの、いささか冷たい人間だと周囲には思われていました。妻を亡くした彼の愛情は娘のメアリ・ルーにのみ注がれていたのです。
 メアリ・ルーは飼い猫のトマシーナを溺愛し、どこに行くにも連れて歩くほどでした。ある日、トマシーナは体を動かせないほどの重病に陥ります。慌てて父親の仕事場に飛び込むメアリ・ルーでしたが、折しも交通事故に遭った犬の手当で手を離せないマクデューイは、声を荒げてしまいます。
 トマシーナの命が助からないことを見て取ったマクデューイは、助手のウィリー・バノックに安楽死させるように指示を出します。父親が猫を助けてくれなかったことにショックを受けたメアリ・ルーはその日から父親と口をきかなくなり、肉体的にも衰弱していってしまいます。トマシーナの一件が町中に広まった結果、マクデューイの仕事は減ってしまいます。
 一方、町の外で暮らす若い女性ローリは《赤毛の魔女》と呼ばれていました。自然と共に生きる彼女は、傷ついた野生動物の治療をしていたのです。彼女の飼い猫タリタの中には、古代エジプトの猫の女神バスト・ラーの魂が宿っていました…。

 娘の愛猫を安楽死させてしまったことで、娘との間に壁を作ってしまった獣医の父親。親子の感情の断絶とその和解を描くファンタジー作品です。
 同業の父親から無理やり獣医の道に進まされたこと、妻を若くして亡くしたこと、などから、父親マクデューイは娘以外の者に冷たい人間になっていました。それは動物に対しても同様で、命を救うのが難しいと判断した場合は、即座に安楽死を選ぶことも多かったのです。それゆえ、娘の飼い猫トマシーナも命が救えないと判断し安楽死を選択してしまいます。
 母親を亡くし、愛情のほとんどをトマシーナに注いでいたメアリ・ルーは、愛猫の死と父親に裏切られた思いから精神的にのみならず、肉体的にも衰弱していってしまいます。メアリ・ルーに拒否されてしまうようになったマクデューイは悩むことになるのです。

 神を信じず、合理主義の塊というべきマクデューイの対局に位置するのが、《魔女》ローリ。マクデューイのような技術はないものの、その愛情と癒しの力から動物たちに信頼され、町の一部の人々にも信用されているのです。
 「商売敵」であるローリに対して偏見を持っていたマクデューイは、彼女と実際に接してその魅力に囚われていくことになります。その過程で、凝り固まっていた彼の考え方にも変化が起き、娘にしたことに対する後悔の念がわき上がってくることにもなります。

 マクデューイとローリが対極の世界観を持つ人物とするならば、マクデューイの親友ペディ牧師は、その中間を示すようなキャラクターとなっています。神を信じながらも、マクデューイの立場や考え方にも共感を示し、それでいて最終的には神への信仰の方向にも導く、という懐の広い人物となっていますね。

 ある意味、現実主義者だったマクデューイが、奇跡や神を信じるようになり、世界を愛するようになる過程を描いた物語ともいえるでしょうか。
 「奇跡」を描いたファンタジー作品ではありますが、実は、明確に超自然現象として現れるのは、ローリの飼い猫タリタの中に猫の女神の魂が宿る、という部分だけです。作中、女神バスト・ラーの独白部分が挟まれ、その実在が示されるのですが、それを認識するのは一緒に飼われている動物たちだけで、周囲の人間にはただの猫としてしか認識されていないのです。バスト・ラーが後半、魔術のようなものを使っている節もありますが、それが人間たちには分からない、というあたりも上手い描き方となっています。

 マクデューイ、メアリ・ルー、ローリ、孤独を抱えた人間たちが愛情によって救われる…という癒しのファンタジー作品です。また救われるのは人間だけでなく、その対象は、トマシーナを始めとする犬や猫、野生の動物たち、虐待される見世物の動物たち、ケガをしたカエルまで広がっています。人間、そして動物に寄せる作者ギャリコの信頼と愛情の念が溢れており、傑作といってよいファンタジーかと思います。
 ちなみに、トマシーナは、作者ギャリコの代表作『ジェニィ』に登場するヒロイン猫ジェニィの子孫とされています(トマシーナの大叔母がジェニィという設定)。


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絶望と希望の旅  タニス・リー『冬物語』

冬物語 (ハヤカワ文庫 FT 43) 文庫 – 1982/8/31


 タニス・リー『冬物語』(室住信子、森下弓子訳 ハヤカワ文庫FT)は、二篇を収録したファンタジー中篇集です。

「冬物語」
 高齢の先代から若くして巫女の役目を受け継いだ一七歳の少女オアイーヴ。彼女の最も重要な役目は、祭殿に収められた三つの聖遺物、指輪と宝石、そして短くほっそりした骨のかけらを守ることでした。
 ある日、狼の毛皮をまとい全身灰色ずくめのグレイと名乗る男が現れ、聖骨のかけらを渡すように要求します。オアイーヴは拒否しますが、グレイは魔法を使って祭殿に侵入し骨を盗み出してしまいます。
 オアイーヴは聖遺物を取り返すために、グレイを追って旅に出ることになりますが…。

 聖遺物を盗み出した男グレイとそれを追う少女巫女オアイーヴが描かれるファンタジー作品です。魔法の心得のあるオアイーヴですが、グレイは彼女を上回る力を持っているようで、旅のゆく先々で邪魔をされてしまいます。しかもグレイの後ろには、さらに強大な存在が現れることにもなります。
 追いつ追われつのシンプルなお話かと思っていると、やがてグレイの背後にいる人物と、グレイが盗みを働いた原因も明らかになり、同時に、物語も思いもかけぬ展開を迎えます。
 時間や歴史の改変までもが行われ、聖遺物の謎や村の巫女制度の由来までも明らかになるラストには驚きがありますね。
 ある人物のためにオアイーヴが行う決断には、犠牲が伴いながらも明るい未来が待っていた…という結末も好感触です。


「アヴィリスの妖杯」
 王の命令により都市アヴィリス攻略に参加した軍隊長ハヴォル。アヴィリスの領主とその子供たちは闇の力と手を結んでいたという噂がありました。アヴィリスは陥落し、領主たちは命を落としますが、その後、盗人カキルを捕らえたハヴォルと副隊長フェルースは、カキルから城の秘密の部屋に隠されたという財宝について聞き出します。
 気にかけていた部下の少年ルーコンが戦死し、彼の家族に少しでも金を持っていってやりたいという思いから、ハヴォルは財宝を手に入れようと、城に忍び込むことになります。
 秘密の部屋に隠されていたのは、金の杯でした。それはアヴィリスの領主が邪悪な魔術に利用したと言われているものでした。ハヴォルとフェルース、カキルの三人は、その杯を金に換え、等分することを約束します。しかし杯を持っていることを知った町の人々は彼らを恐れ排斥します。
 しかも三人が旅を進めるうちに、何者とも知れぬ三人組が後をつけてきていました。やがて体調を崩したカキルが命を落とすことになりますが…。

 邪悪な妖杯を手に入れたことから呪われ、命を狙われる三人の男の旅路を描いたホラー風味のファンタジー作品です。
 三人は、行く先々の人々からは排斥され、常に霊のような者たちから追われ続けます。しかもたびたび悪夢に襲われるようにもなります。
 欲にかられたカキル、利己心の強いフェルースはともかく、主人公ハヴォルは義理がたく同情心も強い男として描かれており、妖杯による呪いは、降ってわいた「災難」の感が強いです。仲間二人が呪い殺されてしまうのは予想がつくのですが、ハヴォルが呪いに打ち勝てるのか、それとも殺されてしまうのか、といった部分が読みどころでしょうか。
 呪いは、眠り込んだ途端に悪夢となって襲い掛かってくるという質の悪いもので、ハヴォルが眠らないように薬を調合してもらってまで対抗しようとするシーンにはサスペンスがありますね。
 仲間二人が死んでから、ハヴォルが一人で杯を背負い続けたまま旅を続ける部分は、ほんとうに絶望的な旅路で、非常に迫力があります。
 世界観はファンタジー的なのですが、その読み味はほぼホラーです。強い恐怖感が味わえ、ホラーファンにも満足のできる作品ではないかと思います。


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プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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